

車両から、鉄道の未来をつくる03
西武鉄道の車両部では、鉄道を止めないための更新と、次の時代を見据えた車両づくりが、同時に進められている。その象徴となるのが、山口線における約40年ぶりの新造車両更新だ。新交通システムという独自の条件を持つ山口線では、設計・安全・走行性能・メンテナンスまで、すべてを一から見直す必要があった。鉄道会社としての思想と責任が問われる、車両部の“花形”とも言える仕事である。一方で、車両部が向き合ってきたのは、新造だけではない。環境負荷や資源の有効活用、将来の運行を見据えた判断の中で、「サステナ車両」という新たな選択肢にも取り組んできた。スケールも性質も異なる二つのプロジェクト。しかし、その根底にあるのは共通している。「この先も、安全で快適なサービスを提供し続けられるか」その問いに、車両という形で答え続けること。それが、西武鉄道の車両部の仕事だ。

Aさん
車両部 車両課 / 専門職
車両部に所属し、山口線(レオライナー)新造車両更新を中心に担当。検修場、車両所や車両工事事務所での経験を活かし、設計内容の確認や現場とのすり合わせ、安全性・走行性の検証など、実務に近い立場からプロジェクトを支えている。図面や仕様だけでなく、実際の運用や整備を見据えた判断を重ねながら、日常の運行を支える車両づくりに取り組んでいる。

Mさん
車両部 検修課 / 課長補佐・総合職
車両部に所属し、サステナ車両プロジェクトをはじめ、車両更新全体の考え方や判断に関わってきた。車両所での現場経験や本社検修部門、情報システム部門など経験を通じて、車両の状態や運用、保守の実態を理解している。現在は本社の立場から、「この先も安全に走らせ続けられるか」という視点で、車両更新における選択肢や判断の整理を担っている。
CHAPTER01
山口線新造車両プロジェクト

大手私鉄では唯一の「新交通システム」である山口線(レオライナー)の新造車両更新は、車両部にとって特別な意味を持つプロジェクトだった。この山口線の新造車両の導入は約40年ぶりで注目を集めていることもあり、単なる更新ではない。この先20年、30年と色あせないような車両をつくることは非常に難しかった。Aさんが担ったのは、設計・仕様検討の中でも、その判断に明確な理由を与える役割だった。新造車両だから自由に決められるわけではない。山口線特有の勾配や線形、運行条件、保守体制。これまで積み重ねてきた現場の知見を踏まえながら、「なぜこの仕様でいくのか」「将来にわたって問題が起きないと言えるのか」を一つずつ詰めていく必要があった。ここでの判断は、後戻りがきかない。だからこそ、Aさんは“説明できる判断”を積み重ねていった。
CHAPTER02
山口線新造車両プロジェクト

設計がまとまり、車両が形になっても、仕事は終わらない。試運転や各種調整の段階では、新しい車両が本当に想定どおりの性能を発揮するのか、細部まで確認が続いた。机上では成立していた設計が、実際の走行環境でどう振る舞うのか。そこで得られる結果一つひとつが、今後の改善や判断につながっていく。新造レオライナー「L00系」第1編成が西武鉄道に搬入された際、Aさんが感じたのは達成感と同時に、責任の重さだったという。新造車両は「完成品」ではなく、走りながら磨かれていく存在だ。日々の運行を通じて見えてくる課題に向き合い、次の改善へとつなげていく。その積み重ねが、山口線の未来を支えていく。
新しい車両をつくることは、未来の選択肢をつくることでもある。Aさんの仕事は、その最初の土台をつくることだった。
CHAPTER01
サステナ車両プロジェクト

サステナ車両プロジェクトの出発点は、他社で使われていた車両を譲り受け、西武鉄道で活用するという判断だった。環境負荷の低減や資源の有効活用という観点から見れば、理屈としては理解しやすい選択肢かもしれない。しかし、鉄道会社にとって車両は、単なる“モノ”ではない。「走らせられるかどうか」ではなく、「この先、安全で快適なサービスを提供できるかどうか」が問われる。総合職としてこのプロジェクトに関わったMさんは、当時を振り返り、こう語る。
「環境にいいから、という理由だけでは決められませんでした。西武の運行条件、安全基準、メンテナンス体制に本当に合うのか。そこを一つずつ確認する必要がありました」
検討は、想像以上に多岐にわたった。車体の状態、電装品や台車の仕様、改造の難易度。改造コストと将来の維持費、現場への負担。さらに、「譲受」という前例の少ない取り組みを、社内でどう説明し、どう理解してもらうかも重要なテーマだった。
「最初から賛成一色だったわけではありません。“本当に大丈夫なのか”という声も、当然ありました」
Mさんの役割は、現場やメーカーの声を集め、数字と実態の両面から選択肢を整理し、最終的に“決める”ことだった。その判断軸にあったのは、10年後、20年後にこの決断を説明できるかどうかという視点だ。
CHAPTER02
サステナ車両プロジェクト

車両づくりには、鉄道会社ごとの思想が色濃く表れる。壊れにくさを最優先する会社もあれば、更新を前提に合理性を重視する会社もある。サステナ車両を進める中で、Mさん自身も改めて「西武らしさ」を意識するようになったという。
「譲り受けた車両を、そのまま使うのでは意味がありません。西武として、安全に、快適なサービスを提供できる形にする。そこまでやって初めて、“西武の車両”になると思っています」
単に環境配慮を掲げるのではなく、鉄道会社としての責任を果たす。その思想が、サステナ車両の細部にまで反映されていった。
CHAPTER03
サステナ車両プロジェクト

サステナ車両が実際に営業投入されたあと、プロジェクトは新たなフェーズに入った。利用者からは、
「特に違和感を感じなかった」という声が多かったという。鉄道の世界では、それは決して小さな評価ではない。
「目立たないこと自体が、ひとつの成功だと思っています」
社内でも、当初慎重だった声が次第に変わっていった。“想像以上にスムーズに走っている”“現場の負担も想定より大きくない”そうした実感が、次の検討につながっている。サステナ車両は、単発の取り組みではない。「譲受」という選択肢を、今後も使える判断軸にするための第一歩だった。
Mさんは、こう続ける。
「今回の経験は、これからの車両更新を考える上で、確実に生きてくると思います。“新造か、譲受か”ではなく、“どの選択が最適か”を考える。その幅が広がったのは、大きな成果です」
EPILOGUE01

山口線新造車両とサステナ車両。規模も性質も異なる二つのプロジェクトは、西武鉄道の車両づくりの幅を象徴している。大胆な判断が求められる場面もあれば、地道な検討を積み重ねる場面もある。 立場や役割は違っても、一人ひとりが判断し、考え、責任を引き受けながら、車両の品質と安全を支え続けている。その積み重ねがあってこそ、西武鉄道の車両は走り続ける。
EPILOGUE02

人口構造や価値観が変わる中で、鉄道に求められる役割も変わり続けている。だからこそ、「何を残し、何を新しくつくるのか」を考え続ける必要がある。山口線の更新は次の更新へとつながり、サステナ車両は、終わりのあるプロジェクトではない。西武鉄道の車両部は、今日もまた、未来の“当たり前”をつくり続けている。