電気CBTC

新たな信号システムが、
鉄道の未来を動かす

技術革新の基盤をつくる05

列車が安全に、正確に、当たり前のように走る。その裏側には、決して目立つことのない“電気”の仕事がある。西武鉄道が挑んだCBTC(Communication Based Train Control)実証試験は、電気の仕事の将来を大きく変える可能性を秘めた挑戦だった。

MEMBERプロジェクトメンバー

  • Kさん

    電気部 電気工事事務所 / 副所長・総合職

    電気分野を軸に、鉄道部門・経営管理部門の各領域を経験。CBTCプロジェクトでは、全体を俯瞰する立場として、技術検討と社内外調整を担い、導入判断に向けた整理を行った。

  • Yさん

    電気部 上石神井電気所 / 副主任・専門職

    電気設備の現場業務に携わりながら、CBTC実証試験では現場の立場で安全性・制御検証を担当。新技術を実務に落とし込む役割を担った。

  • CHAPTER01

    「更新」ではなく
    「転換」という選択肢

    このプロジェクトの出発点は、既存ATS設備の老朽化だった。更新の選択肢は複数あり、従来方式を踏襲するか、ATCへ移行するか。あるいは、海外で実績を積み始めていたCBTCに踏み出すか。 CBTCは、無線技術を活用して列車の位置と速度を常時把握し、列車間の安全な距離を確保するように速度を制御する新たな信号システムだ。理論上は運行の柔軟性や効率性が高い一方、日本の都市鉄道での本格導入事例は限られている。
    「本当に使えるのか」
    「営業線で安全を担保できるのか」
    その問いに対し、西武鉄道が出した答えは”実証試験結果を踏まえて判断する”というものだった。

  • CHAPTER02

    実証試験の舞台として選ばれた
    「多摩川線」

    CBTC実証試験のフィールドとして選ばれたのは、多摩川線。全長約8km、4編成というコンパクトな路線だ。
    ・列車の稼働率が高い
    ・夜間工事の調整が比較的しやすい
    ・営業線として現実的な条件を備えている
    試験として理想的でありながら、「運行を止めない」という鉄道ならではの制約を背負い、検証を進めるためには、理想的な環境だった。

  • CHAPTER03

    1年で形にする、前例のない工程

    プロジェクト開始から求められたのは、圧倒的なスピードだった。ATS更新のタイムリミットがある以上、検討に時間をかけることはできない。仕様が完全に固まらない状況からスタートし、1年間で多摩川線全線の設備を完成させるという異例の計画。
    「作りながら決める」
    「検証しながら修正する」
    通常の工事の進め方では到底実現できない厳しい工程を実現させるために、試行錯誤と決断の日々が続いた。1年後、ついに多摩川線CBTC地上設備が全て竣工を迎える。

  • CHAPTER04

    全体を束ね、経営に届ける役割

    Kさんは、プロジェクト全体を見渡す立場として参画した。走行試験の段階から関わり、進捗管理、課題整理、関係部署との調整を担う。CBTCは信号だけの話ではない。車両側の制御、運転取り扱い、保守体制など、複数部門が絡み合う“全社的なテーマ”だった。
    「技術として成立することはもちろん、会社として導入するメリットがあるのかを示す必要があった」
    どうすれば、より会社にとってメリットのある設備にできるのか?試験を進めながらも常に試行錯誤を続け、ソフトウェアの見直しや試験項目の追加を繰り返した。その結果を積み上げ、リスクと可能性を整理し、経営層に判断材料として届ける。その役割は、電気の知識と全体視点の両方を求められるものだった。

  • CHAPTER05

    安全を“数値”で証明する

    一方、Yさんは専門職として、現場領域を担った。特に重要だったのが、踏切動作や列車間隔に関わる安全検証だ。CBTCでは、従来の地上信号とは異なる制御ロジックが用いられる。だからこそ、「感覚」ではなく「数値」で安全を示す必要があった。
    ・列車がどの位置で減速を開始するのか
    ・踏切は何秒前に動作すべきか
    ・非常時にどこまで余裕を見込むか
    「私たちの設計次第で、列車が制御できるかどうかが決まる。その責任の重さは、入社前の想像以上だった」
    既存業務と並行しながらの参加だったが、この実証試験で得た経験は、電気技術者としての視野を大きく広げたという。

  • CHAPTER06

    見えてきた「可能性」と「現実」

    実証試験は課題の発生と対応策の実施、その繰り返しだった。その結果、最終的にはCBTCの導入は、想定以上の効果が得られることを確認できた。しかし同時に、課題も浮かび上がる。保守の考え方、障害時対応、教育体制。実用化には、まだ越えるべきハードルがあること、そしてそれを乗り越えるために何が必要かも明確になった。西武鉄道にとってCBTCは、掴みどころのない未知の技術ではなくなり、現実的な選択肢の一つであることが示されたのである。

  • EPILOGUE

    プロジェクトが残した最大の成果

    CBTC実証試験がもたらした最大の成果は、技術そのもの以上に、組織の意識だった。
    「新技術への挑戦を、会社は後押ししてくれる」
    「根拠を示せば、会社を変えられる」
    その共通認識が、電気部門だけでなく、会社全体に広がったことは大きい。若手が挑戦の場に立ち、総合職と専門職が同じ目線で議論する。西武鉄道が“技術転換に本気で向き合える会社”であることを示したプロジェクトだった。

  • MESSAGE

    電気系学生へ伝えたいこと

    メーカーで製品をつくるのも、電気の仕事。インフラで設備を支えるのも、電気の仕事。しかし、鉄道電気にはもう一つの面白さがある。
    「電車を、実際に走らせる」 という現実。1日に約165万人(2024年度1日平均)が利用する路線を、自分たちの判断と設計で支えるスケール感。西武鉄道には、設計・保守そして新技術の実証試験まで一気通貫で関われる環境がある。そして、挑戦を後押しする文化がある。鉄道の鼓動を支え、未来を灯す。その最前線に、電気がある。